中嶋雑記帳

同人誌サークル中嶋商事主宰、中嶋條治のブログです。

平井駅の女

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今朝の平井駅で嫌な思いをした。私も大人気なかったし、イラつき過ぎていたと今なら反省している。

私は本日、卒業アルバム印刷会社経由で、平井にある写真業者から某小学校入学式の撮影を依頼されていた。業者の事務所に7:30迄に来て欲しいと言われていて、5時起きで向かっていた。

気分が重いのは早朝のせいだけでは無い。
初めて行く業者、初めて行く学校。スナップ写真と保護者有りの入学記念集合写真撮影…これだけでかなり緊張する。カメラバッグ、三脚、大型ストロボ、上履きが入ったリュックなど、大荷物の撮影機材を抱えながら満員電車に揺られているので、疲労と心労は平井駅到着時には相当なものとなっていた。まだ撮影前なのにだ。

平井駅に着いたのは6:45。思っていたより早い。タクシーで行けば5分で事務所に着ける。
よし、朝ご飯にしよう。
と言う事で、JRの駅によくあるイートイン可能なパン屋VIE DE FRANCE が空いていたので、そこで朝ごはん兼休息と洒落込んだ。
サンドイッチ詰め合わせとコーヒー・ヨーグルトのモーニングセットを購入し、カウンターを避けて、店の外れにある1人がけの席に着いた。カウンターだと私の4つある撮影機材が両隣を圧迫してしまい、お客さんにもお店にも迷惑をかけてしまうからだ。
ホットコーヒーを一口飲む。今朝は最近の暖かさが嘘みたいに冷え込んでいたから、余計に心に染み入った。サンドイッチを一口頬張る。無難で決して不味くはない具材が飢えた身体に活力を授けてくれる。これから撮影で大変だが、この数十分はリラックスした時間が味わえる。嬉しくて涙が出そうだった。
電車から降りて、途中で止まっていたYouTubeの動画を思い出して、再生した。リラックスして動画を見る。幸せな朝のひとときである。

そんな朝のひと時に、いきなり侵入してきた奴がいた。
私の横に50代前後の女(オバハンと言いたいのを堪えている)が立ったのだ。
「すみません」
私に女はそう言ってきた。イヤホン越しに聴こえてきて、私の幸せなひとときは瓦解した。
私はワザと嫌な顔をして女の方を振り向いた。気味の悪い笑みを浮かべて、女は中腰になりながら椅子に座る私を見下ろしていた。
「何ですか」
朝のリラックスタイムを邪魔されて、私の怒りは既に沸点だ。
「あ、すみません、実はお話聞いて欲しいんですが…」
一体この女は何なんだ!?私の脳はこの女の正体を探ろうとしていた。この朝早くに駅のパン屋のイートインコーナーで初対面の男に話しかけてくる女は何者なのか。
私は見た目が優男で、落ち着いていて、クレバーに見られる節がある。(自分で言うな)無論中身はポンコツなので、長い付き合いの方は直ぐに私がタダの馬鹿だと知る事になる。
ただ、この見た目のせいで、有楽町や様々な駅の前で不動産投資等の街頭インタビュー、宗教勧誘に捕まる。
目の前の女の服装はスーツではなく、派手では無いがビジネス仕様とは思えず、普段着だろうと推察出来た。この時点で不動産投資などの街頭インタビューと言う線は消えた。となると、宗教の勧誘か。しかし、聖書やチラシを入れた鞄を持っていない。これも違うだろう。どんなツラだ?と、顔全体に目をやる。髪は茶色で肩までのセミロング。眼鏡は無い。
……ここで間抜けな私はある重大事にようやく気が付いた。
女は気味の悪い笑みを浮かべていると先程書いた。何故表情が分かったのか?この新型コロナウイルス感染拡大の時代に。答えは簡単である。女はマスクをしていなかったのだ。

ふざけるな。私は学校相手のカメラマンだぞ。日頃感染予防を出来る限りしているが、仮にコロナに罹ったら、弊社が取引している学校に報告しなければならない。当然、保護者にも知れ渡るだろう。そうなればただでさえ苦しい我が写真館は終わりだ。57年の歴史に幕を下ろす事になる。
しかも私は今マスクを外してモーニングである。非常に無防備だ。

私は慌てた。マスクの効果云々についてはどうでも良い。ただ、こんな女のせいで私の人生を壊されたく無い。
「何してるんですか!マスクして下さいよ!」
私は声を荒らげた。朝ご飯を邪魔された事よりもノーマスクである事に怒りが湧く。
女はビックリしたように後ずさった。優男と思ったら嫌悪剥き出しで大声を出されて面食らった感じだろうか?
「あ、すみません…」
女は退散しようとした。
これはこれで嫌だ。私の朝食を邪魔した無礼を詫びさせるつもりは無いが、目的は聞いておきたかった。後学のためである。
「ちょっとちょっと!何の用だったんですか!」
女は少し距離をとった。成る程、ソーシャル・ディスタンスの概念はある様だ。
「実は私、ある事情でお金をなくしまして〜」
その時点で私はこの女の話を聞くのをやめた。キッパリと縁を断つことにした。
何だ、結局金目当てか。
私は現在、これからやる撮影の緊張感で気持ちが苛立っている。話を聞いてやる精神的余裕など絶無なのだ。その精神的余裕を呼び起こそうとしたBreakfast は邪魔されてしまい、現在怒り心頭である。
1円だってこの女にあげる気は無かった。
それに、私はこの時手持ちの現金が3千円しか無かった。(最初は6千円入っていたが、我が家の最寄り駅でSuicaにチャージしてしまったのである)
うち千円は、朝食後に事務所へ行く為のタクシー代である。もう2000円は、いざと言うときの最低限の現金だ。基本的にカードやQR決済を常用しているから、現金の持ち合わせは無かったのだ。
だから、仮にあげる気があったとしても、渡せない訳である。
今思い返すと、話を聞いて千円だけあげても良かったかもしれない。しかし、私はこの時、朝ご飯を邪魔された怒りで優しさを忘れていた。

女はそそくさと退散し、私は朝ご飯を再開してYouTubeも楽しんだ。
事務所に行くタクシーの中では女の事などすっかり忘れていた。

今、私は横浜に向かう電車の中に居る。
明日は横浜・桜木町にある小学校入学式の撮影を依頼されている。遠いから前泊をするため前日の夜の内に向かって居るのだが、本当は既に着いているべき時間なのだ。5時には早退して横浜に行き、途中で整体などして身体を少しでもケアしたかった。
今日の撮影は思っていたより動き回り、足を痛めていた。出来れば何とかしたかった。それが出来ず、ストレスが溜まって居る中でこの文章を打ち、発散している。
愚痴を言ってスッキリするようなものだ。
だからこの投稿にオチはない。ただの私の愚痴である。